今回ご紹介するのは、「アンカリング効果」という現象です。
アンカリング効果は、情報が人間に与える印象を“操作”できるので、webマーケターの方にとってはもはや必須ともいえる技術です。
アンカリング効果とは?
「アンカリング効果」とは、最初に与えられた情報が、その後の情報に影響を与え、同じ情報でも受ける印象が大きく変わってしまう、という効果のことです。
我々人間は「合理的な動物」と呼ばれますが、だからといって人間の意思決定が、常に合理的なものかと言われたら、決してそうではありません。時には非合理的な意思決定をしてしまうことだってあります。
人間は、情報がそろっていないときは、特定の情報を基準として意思決定をする、ということが分かっています。
アンカリング効果は、人間のこの行動特性を利用したものです。
アンカリング効果の語源
アンカリング(Anchoring)効果の“Anchor”は、「錨」という意味です。港に船をつなぎとめておくための道具、「錨」です。Anchoringは、錨を下ろして船をつなぎとめておくことを言います。つまり、アンカリング効果とは、最初に与えた情報により、相手をつなぎとめておく(身動きを取れなくする)ことを指します。
アンカーは数字が有効
アンカリング効果において、最初に与えられる情報のことを「アンカー」と呼びますが、このアンカーには、数字を使うのが有効だと言われています。
アンカーが数字で「なければならない」ということはなく、数字以外の情報でも効果はありますが、アンカーが数字だった場合に、最も大きな効果を発揮することが、実験の結果によってわかっています。
なぜ数字が有効なのか、その理由は、以下でアンカリング効果の例をみていく中で、お分かりいただけるかと思います。
アンカリング効果の具体例
それではここから、アンカリング効果の具体例を見ていきましょう。きっと多くの方が、「言われてみれば似たような経験をしたことがあるかも」とお思いになるかもしれません。
マーケティング
アンカリング効果が活用されるシーン1つ目は、マーケティングです。
これは、買い物をする際に多くの人が目にする、「価格表示」に使われます。
例えば、以下2つの値札を見たとき、あなたはどちらを買いたくなるでしょうか。
A:炊飯器Aが30,000円!!
B:炊飯器B、通常価格50,000円のところを35,000円!
きっと多くの方が、Bを選択するでしょう。
しかし、その選択は本当に合理的でしょうか?値札に書いてないだけで、炊飯器Aの元値は100,000円だったかもしれません。
また、そこまで高くなかったとしても、本来炊飯器Aは、Bよりも元値が高いものかもしれません。
冷静に考えると、AとB、どちらがいいものなのか、上記の情報だけでは判断できないはずです。
それなのに、多くの人はBを選んで買ってしまう。
実は、これこそがまさに、マーケティング分野で活用されるアンカリング効果の威力です。
上記の例では、「50,000円」という元値がアンカーとなり、我々がこの値段を基準として、「35,000円はお得!」というイメージを抱いてしまったことになります。
営業
「アンカリング効果」が活用される場面、代表例の2番目は営業です。
もっと具体的に言えば、見積書に「値引き」欄を設け、合計金額をよりお得なものに見せる、というものです。
- 元々の合計が100,000円の見積書と
- 10,000円の値引き後に100,000円と書かれた見積書
上記2つの見積書が存在する場合、結局支払う値段が同じだとしても、後者の見積書の方が、もらっていて気持ちいいのも、アンカリング効果のなす業です。
株式投資
アンカリング効果の代表例第3は、「株式投資」です。
いきなりですが、あなたは下記2つのうち、いずれかの株式を購入する権利があるとします。さて、どちらをより購入したいでしょうか?
A:過去12カ月間、株価が上昇し続けている株式
B:過去12カ月間、株価が下降し続けている株式
どうでしょう、おそらく多くの方がAの株式を選んだのではないでしょうか。実は、これもアンカリング効果によるものです。
過去の株価が上がり続けていようが、上がったり下がったりを繰り返していようが、これから先の株価が上がるか下がるかには、さほど関係ないかもしれません。
ずっと上がり続けているAがいきなり下がり始めるかもしれませんし、今後しばらくは、Bの株価が上がり続けるかもしれません。
さらに言えば、今の株価は、AとB,ともに同じかもしれません。
過去の株価の変動は、今後の株価には何ら関係のない数字かもしれませんが、我々は「今までずっと株価が上がり続けている」という情報(アンカー)により、「その後の株価も上がるのではないか」という印象を抱いてしまいがち、ということです。
日常生活
さて、マーケティングや営業、株式と、ビジネスの世界でのアンカリング効果の活用例をお話ししましたが、実はこのアンカリング効果、日常生活でも活用することができます。
例えばあなたは今、重要な約束に1時間ほど遅刻してしまいそうな状況に置かれているとします。
当然、約束の時間に遅れてしまう、ということは、相手に事前に伝えておくべきですが、ここで正直に「1時間ほど遅れてしまいます」と伝えるのではなく、一工夫入れてしまいましょう。
遅れてしまう時間を、少し長めに設定し、「1時間半ほど遅れてしまいそうです」と伝えてみましょう。
実際にあなたが遅れたのが1時間だったとして、あなたが到着したときの相手の感情を考えてみましょう。
前者、正直に「1時間」と伝えた場合はどうでしょうか。
怒り出すかどうかは別として、相手が抱く感情は「1時間も遅れて来て……」という感情飲みになるでしょう。
一方で後者、少々長めに「1時間半」と伝えた場合はどうでしょうか。
きっと「遅れてはきたけど、事前に伝えてくれたのよりは早く着いている。必死に急いできたんだろう」と、若干の好印象すら持つ可能性があります。
これも立派なアンカリング効果です。
事前に伝えた情報がアンカーとなって、実際に遅れた時間を認識するので、若干好印象すら抱いてしまうということです。
アンカリング効果のWebサイトへの活用方法
そしてこのアンカリング効果、Webサイトにも活用することができます。
アンカーを設置してお得感を演出する
例えば、以下の図をご覧ください。
マーケティングのところでお伝えした内容と重複する部分がありますが、実際の売値「¥300」の上に、元値の「¥500」を敢えて表示しています。
こうすることにより、この「¥500」という表示がアンカーとなって、¥300という値段が、何もない場合に比べて安く感じられます。
これが、Webサイトにてアンカリング効果を活用した例です。
見せる順序によって与える印象を変える
また、例えば、幅広い価格帯の製品を販売するときなどには、それらを見せる順序も、ユーザーに与える印象を大きく左右します。
例えば、製品を値段の高い順に並べた場合。
この場合、一番最初に与えられた、「一番高い値段」がアンカーとなるため、後続の製品群が安価に感じられ、思わず手を出しやすくなるでしょう。
また、製品群を一通り見終えたユーザーは、全体的に「リーズナブルだな」という印象を持って、Webサイトを閉じるでしょう。
一方、製品の値段を低い順に並べた場合。
この場合は、一番最初に与えられた「一番低い値段」がアンカーとなるため、後続の製品群は、次第に高価なものに見えてきて、製品群を見終えた人は、全体的に、「高級ブランドなんだな」という印象を抱いて、Webサイトを閉じるでしょう。
このように、アンカリング効果は、「最初の情報」が肝となるため、自分自身がそのWebサイトで何を訴求したいのかによって、最初に提示する情報をうまくコントロールすると酔いでしょう。
アンカリング効果を活用するときの注意点
ここまで話を聞いてきて、少し頭のいい人なら、下記のような、邪な考えが浮かんで気はしませんでしょうか。(筆者自身もその1人でした。)
もしアンカリング効果があるのなら、嘘をついて元値をべらぼうに高く表示したうえで販売価格を書けば、とんでもないお得感を演じることができて、製品が売れるのではないか?
―その通り・・・なのかもしれませんが、それ、犯罪です。
通常価格を偽って(異常に高く表示して)販売価格を安く見せることは、「二重価格表示」と呼ばれ、法律で禁止されています。
まとめ
アンカリング効果は、「リテラシーの高い人には通用しない」ということもなく、人間には遍く影響を与えうるものですから、「見せる順番」を意識して、最大限目的達成できるよう、うまく活用されるとよいでしょう。
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