ヘッドレスCMSとは?従来のCMSとの違い、注目される理由を解説

インターネットが発達したことで、企業が自社Webサイトを持つことは当たり前の時代になりました。また、多くのWebサービスが登場しており、Webサイトを管理するためのCMSを利用している企業も多いでしょう。そんななかで、近年注目を集めているものがヘッドレスCMSです。

この記事では、ヘッドレスCMSがどのようなものなのか、従来のCMSとの違いや注目される理由などについて解説します。

ヘッドレスCMSとは

はじめに、CMS(Content Management System)について簡単におさらいしておきましょう。CMSとは、Webサイトを効率的に構築・運営するためのシステムであり、WordPressやMovable Typeが有名です。

従来のCMSは、管理画面・データベース・表示画面の3つがセットになっています。このうち、表示画面はビューやヘッドと呼ばれる部分であり、ヘッドレスCMSではこの部分がありません。つまり、ヘッドレスCMSとは管理画面・データベースのみで構成されたCMSということです。

従来のCMSとヘッドレスCMSの違い

従来のCMSは3つの機能がセットになっていることで、誰でも簡単にWebサイトを構築して効率的に運営することが可能です。WebサイトはHTML・CSS・JavaScriptを組み合わせて表示されていますが、ある程度テンプレート化されているためこれらの知識がなくとも利用できます。Webページのデザインが表示画面の機能として備えられている、と考えられるでしょう。

しかし、テンプレート化されているがために近年ではさまざまな問題が発生するようにもなりました。詳細は後ほど解説しますが、その課題を解決するためにヘッドレスCMSが注目されているのです。

ヘッドレスCMSでは表示画面に該当する機能がありません。管理画面・データベースで管理されている情報は、APIによってコンテンツを配信することで表示画面(ヘッド)は別途実装する必要があります。従来のCMSとヘッドレスCMSの大きな違いはこの点です。

WordPressを利用している場合は表示画面をPHPで実装する必要がありますが、ヘッドレスCMSではPHPにこだわる必要がありません。APIによって取得したコンテンツを自身の好きな言語を使って表示画面を実装できます。

ヘッドレスにすることでさまざまなメリットをもたらしますが、こちらについても後ほど詳しく解説します。

ヘッドレスCMSがなぜ注目を集めているのか?

従来のCMSとヘッドレスCMSの違いを踏まえ、なぜ注目を集めているのかを解説します。

WordPressでの運営に限界が

従来のCMSとしては、世界中でWordPressが多く利用されています。WordPressはPHPで作成されており、前述の通り詳しい知識がなくともWebサイトが構築・運営できるため、企業・個人を問わず利用されているシステムです。

しかし、WordPressでWebサイトを構築した場合、Webサイト全体を一括で管理することになります。長い期間運営を続けると大量のコンテンツデータが蓄積され、WordPress以外のCMSへの乗り換えや、リニューアルをしようとすると多大な労力が必要になります。

また、WordPressはオープンソースのシステムであり、手厚いサポートがあるわけではありません。自身でバージョン管理やセキュリティ対策をする必要があります。誰でも手軽にWebサイトを構築・運営できるシステムですが、規模が大きくなるほど運用に時間と労力が必要で限界が来ています。

必要なときに必要なシステム変更が可能

先程もお話ししたとおり、WordPressはWebサイト全体を一括で管理するシステムです。表示画面もWordPressの機能として備わっているため、表示画面だけを改修したいと思ってもその裏にある管理画面やデータベースへの影響も考慮しなければなりません。

また、Webサイトの中の一部ページ部分だけCMS化する、ということも基本的にはできません。対して、ヘッドレスCMSであれば表示画面は機能として切り離されており、表示画面の回収はCMS部分に影響することがなく、特定のページ部分だけ導入するということも可能です。

Webサービスの加速

近年ではスマートフォンの普及もあり、パソコンよりもスマートフォンでWeb閲覧する機会が多くなっています。また、スマホアプリとWebサイトの連携も重要です。スマホアプリとWebサイトを連動させ、Webサイトの内容をスマホアプリに表示するような使い方も増えています。

ヘッドレスCMSであればコンテンツの管理と表示画面を分離しているため、ブラウザを通したWeb閲覧用の表示画面と、スマホアプリの表示画面をそれぞれ分けて設計しても、APIを用いて同じ情報を簡単に取得可能です。

その他にも、WordPressの場合は表示画面を動的に構成するための処理時間がかかりますが、ヘッドレスCMSであれば取得した情報をそのまま表示するだけであるため描画速度の向上が期待できます。コロナ禍で今まで以上にWebの重要性が増したいま、ヘッドレスCMSの重要性も増しています。

サイバーセキュリティの強化

WordPressはPHPで作成されたオープンソースのシステムです。世界中で多くの人が利用しており、誰でも中身(ソースコード)を閲覧できることからサイバー攻撃の対象になりやすくなっています。Webサイト全体を一括管理しているため、サイバー攻撃を受けるとWebサイト全体に影響を及ぼします。また、PHPは多くの脆弱性が見つかっており、言語としてもあまりセキュリティには強くない言語と言えるでしょう。

対して、ヘッドレスCMSのCMS部分はソリューションごとに異なり、表示画面はそれぞれ好きな言語で実装できます。PHPで作成されたシステムよりもセキュリティを高められ、それぞれの企業によって管理されているためWordPressに比べればサイバー攻撃の被害に遭いにくいと言えるでしょう。加えて、Webサイト全体ではなく一部ページにのみ導入する、という使い方も可能であるため、仮にサイバー攻撃を受けた場合でも影響範囲を少なくできます。

世界規模で見るヘッドレスCMSの状況

Googleトレンドで調べてみると、2016年ごろから徐々に増え始め、近年最も注目を集めている状況です。後に紹介するContentfulやGraphCMS・StrapiなどのヘッドレスCMSはここ数年で誕生し、海外を中心に人気を高めてきました。

なかでも、Contentfulは2021年7月に資金調達をし、創業10年以内に10億ドル以上の評価額がつけられたベンチャー企業である「ユニコーン企業」となっています。海外の大手企業もヘッドレスCMSを導入しており、IBM・Walmart・SAMSUNG・SHURE・PHILIPSなどの企業が各種ヘッドレスCMSを活用しています。

国内でのヘッドレスCMS導入事例

国内でも大手企業を中心にCMSの導入が進んでおり、TOYOTA・資生堂・RICHO・Benesseなどの企業がヘッドレスCMSを活用しています。

その他にも、例えば株式会社ZOZOではECサイトのZOZOTOWNの運営にヘッドレスCMSを導入しており、株式会社バンダイナムコオンラインではコーポレートサイトや採用サイトに導入しています。サービスサイト・メディアサイト・Webアプリに導入している日本企業も多く、さまざまな形で導入・活用が進んでいる状況です。

ヘッドレスCMSのメリット・デメリット

ヘッドレスCMSは従来のCMSに比べると多くのメリットをもたらしますが、導入する際にはデメリットについても併せて理解しておく必要があります。

ヘッドレスCMSのメリット

ヘッドレスCMSを導入する主なメリットとしては次のような点が挙げられます。

  • 表示速度が速い
  • セキュリティを高められる
  • 拡張性、保守性が高まる
  • コストを抑えられる

すでにお話ししたとおり、表示画面の機能が分けられていることで従来のCMSに比べて表示速度を向上させることが期待できます。また、特にWordPressを利用している場合と比べてセキュリティを高められる点はメリットの一つです。

表示画面部分を別途実装することで、表示画面の回収が必要になってもCMS部分には影響が及びません。一部ページにのみCMS機能を実装する、ということも実現できるため、拡張性が高く保守性も高まります。

加えて、ヘッドレスとなることでCMS側の処理する内容が減り、Webサーバーに求められるスペックも高いものでなくとも高速表示が実現できます。上手に運用できれば、おもにサーバーに関わる部分でコストの削減が実現できるでしょう。

ヘッドレスCMSのデメリット

反対に、ヘッドレスCMSを導入する際のデメリットとしては次の点が挙げられます。

  • 表示画面機能を実装する必要がある
  • コンテンツの上限数に注意する必要がある
  • 動的なページの生成には別途ツールが必要

ヘッドレスCMSでは表示画面の機能が実装されていないため、自前で用意しなければなりません。その際には、HTML/CSS/JavaScriptをはじめとする言語の知識と併せて、APIを取り扱う知識・技術が必要です。フロントエンド部分を担当するエンジニアが必要になる点はデメリットとして挙げられるでしょう。

また、サービスごと・プランごとに入稿できるコンテンツ数には上限が定められている場合がほとんどです。特に大規模なWebサイトを構築する際には気をつけるべき点になります。加えて、ヘッドレスCMSは静的なページとしてコンテンツデータを管理するため、入力フォームなどの動的な機能を利用したい場合には別途外部ツールが必要です。

主なヘッドレスCMSの種類

ここからは、主なヘッドレスCMSとして6つのサービスを紹介します。特徴の簡単な解説と併せて、代表的な利用企業についても紹介するため、導入の際の参考にしてください。

Contentful

CONTENTFUL公式サイト

Contentfulはドイツの企業発のヘッドレスCMSであり、最もよく知られたサービスの一つです。APIベースのクラウドサービスであるため、サーバー管理の必要がありません。デスクトップやモバイル向けのWebページだけでなく、デジタルサイネージやスマートウォッチなどのプラットフォームへのコンテンツ配信も可能なAPIが用意されています。GoogleやGitHubなどのアカウントから簡単に登録できます。

利用料金 月額$489~(無料プランあり)
導入企業例 資生堂、asics、EQUINOXなど

Hygraph(GraphCMS)

Hygraph(GraphCMS)公式サイト

Hygraphは2022年7月にGraphCMSから名称が変わりました。こちらもドイツの企業発のヘッドレスCMSです。Meta社が開発したGraphQLの活用に特化しており、豊富なフィルターオプションやバッチ処理などが充実しています。

利用料金 月額$299~(無料プランあり)
導入企業例 SAMSUNG、SHURE、PHILIPSなど

Strapi

Strapi公式サイト

StrapiはオープンソースのヘッドレスCMSであり、クラウドサービスではなくNode.jsで動作します。GitHubからソースを入手すれば誰でも簡単に利用可能です。開発環境を1行で簡単に構築できるクイックスタートに対応している点が特徴です。デフォルトでは最低限の機能のみとなっており、必要な機能はプラグインで追加する形になりますが、非常に拡張性が高いヘッドレスCMSとなっています。

利用料金 無料
導入企業例 TOYOTA、IBM、Walmartなど

Blue Monkey

Blue Monkey公式サイト

Blue Monkeyはクラウド型の国産CMSです。厳密にはヘッドレスCMSではありませんが、ブログ機能などを外部出力することでヘッドレスCMSとして活用できます。DDoS対策、IPS、FW、WAFが標準セキュリティとして導入されており、オプションで独自SSL対応・改ざん検知も対応可能です。国産であるためサポートも充実しており、セキュリティの高さと併せてBlue Monkeyの特徴となっています。

利用料金 月額3万円~
導入企業例 リクルート、クレディセゾン、hoyuなど

MicroCMS

MicroCMS公式サイト

MicroCMSも国産のヘッドレスCMSです。Contentfulと同じくAPIベースでありながら、国産であるため管理画面もすべて日本語に対応しています。Next.jsやNuxt.js、GatsbyJSなどのJavaScriptのフレームワークに対応しており、PHP・Ruby・Goなどのプログラミング言語に対応しています。

利用料金 月額4,900円~(無料プランあり)
導入企業例 Benesse、RICHO、Panasonicなど

Prismic

Prismic公式サイト

Prismicは他のヘッドレスCMSに比べて安価に利用できる点が特徴です。React.jsやNuxt.js、Vue.jsなどのJavaScriptフレームワーク、GraphQLやRest APIにも対応していながら管理者が1人で利用するのであれば無料で利用できます。

利用料金 月額$7~(無料プランあり)
導入企業例 Spotify Technology、New York Times Company、DegitalOceanなど

まとめ

ヘッドレスCMSは、従来のCMSに搭載されていた管理画面・データベース・表示画面(ヘッド)から表示画面の機能が切り離されたCMSです。従来のCMSが抱える多くの問題を解決できるとして注目を集めています。

ヘッドレスCMSは多くのメリットをもたらしますが、導入する際にはこの記事で紹介したデメリット部分についてもしっかりと理解しておきましょう。代表的なヘッドレスCMSも紹介しましたので、まずは無料プランのあるサービスから試してみてはいかがでしょうか。